ひきこもりの作法

一本、また一本…集めた後ろ指の数はアイドル級。悩み多き某ひきこもりによる孤軍奮闘の日々がここに。

ひきこもり不動録Vol.21「飛蚊症(ひぶんしょう)」

飛蚊症(ひぶんしょう)

長きに渡るひきこもり生活の中で、私は様々な症状を経験してきました。

 

狭い自室に引き篭もっていては、仕事や学校、人間関係の忙しさに程よく気がまぎれるような機会にも在りつけず、ただ粛々と己の心身に生じた異常へ向き合うことになります。膝を抱えて、じーっとです。

 

しかし病気というのも上手く出来ているようで、そのほとんどは向き合って苦しんでいる内に、だんだんと異常の原因、治し方がわかってくるようになっていました。苦しみの果てに、決まって光が見えてくるのです。

 

その甲斐あって、大方の心身不調は解決に至りましたが、今でも一つだけ定期的に復活する厄介なものがあります。それがタイトルにも書いた飛蚊症(ひぶんしょう)です。

 

飛蚊症の症状といえば、読んで字の如く、視界中に蚊が飛んでいるような黒い斑紋が表れます。軽度であれば一匹ですが、酷くなると"蚊の大群"だったりするようです。私のような神経質であれば特に、これが一度気になるとなかなか忘れられない厄介さなのです。

 

5匹くらいの蚊を視界に飼いながら、私は散歩に出掛けました。「そういえば、じっと空を見つめる時間を最近は持てていなかった」「近頃は風邪を引いてしまったり、寒さに負けて室内で過ごす時間が多かった」「それで運動不足だし、目だけは酷使していた」

 

妙なもので、そうやって症状の苦しさきっかけに色々な気付きと内省が起きてくるものです。趣味の健康情報を漁る中で、「症状になり切れば良くなる」「病気は人を治すために起きる」といった考え方を聞いたことがあるのをふと思い出しました。先天性のものはまた別の話になりますが、後天的な病気には必ず原因があるものですし、本当にそんな気がしています。多種多様な病気に悩まされてきた人生ではありますが、どうも私は病気という仕組みを心の底から恨む気にはなれません。

 

とにかく遠くの景色を見たり、昼間の明るい空を見て歩き回りました。蚊どもは小賢しく飛び回りますが、青い自然光が効いているような手応えがあります。お昼時だからか、日曜日の正午はやけにひと気が少なく、住宅街などもしんと静まり返っていました。文明を誇る銀色の楼閣、無数のビルが立ち並ぶ都会エリアも、やけに静まり返っていたので、異世界にでも迷い込んだような気持になりました。ビルや雑踏は私の嫌いな部類ですが、こうもひと気が無いとなんだか美しいなと感心させられました。静かなビル群の間には、透明な理性の風たちが吹き交っているようです。

 

案の定、散歩から帰る頃には憎き蚊共もほとんど一匹にまで減っていました。そういえば、「日光は目を良くする」という健康情報を聞いたことがあります。今回はそれに加えてしっかり運動したことも良かったのでしょうし、外の景色を見て、何かを感じることは精神的な気分転換にもなっていそうです。残りの一匹を浄化する為にも、重い腰を上げて散歩の習慣を再開してみようと思います。