ひきこもりの作法

一本、また一本…集めた後ろ指の数はアイドル級。悩み多き某ひきこもりによる孤軍奮闘の日々がここに。

ひきこもり不動録Vol.33「いのち綱の修繕」

 

正気の源泉

社会との繋がりや立場を持たないひきこもりにとって、インターネットとそれを利用できる電子機器の存在は辛うじての正気の源泉であり、命綱でもあります。

 

私は「重篤な依存症に陥ってしまう」という自覚からスマホを全くと言ってよい程触らないタイプのひきこもりなので、専らPCだけが頼りの生活です。

 

そのスマホについてももう7年以上は前の機種のままであり、ほとんど動かくなっているのですが……(笑)

 

note.com

以前、noteにもこんな記事を書いていました。

 

記事中にあるように、明らかに動作が重い私のPCでも、「デフラグ」や「クリーンアップ」といった基本のメンテナンスをたびたび試みることで、一時的に動作を持ち直してくれていたのです。

 

しかし、何といってもスマホ同様に7年前の骨董品である我がPC。ここ一年くらいで、いよいよ小細工さえ通用しなくなってきていました。

 

「貧すれば鈍する」。

 

……いや、「鈍すれば鈍する」というものでしょうか。

 

クリックや文字入力など、何か1アクションを起こす度に固まるPC画面と向き合っている内に、自分の頭まで固まっていくような気がしていました。

 

人間が日常的に目にするデバイスの色や形、それに挙動といった光景は、少なからず当人の無意識の方にも影響を及ぼしてきているように思います。

 

高額・高性能なPCを使ってサクサク作業をこなしている人は、"本体"の方もどんどん加速して性能が上がってゆくのではないかと想像させられます。

 

嗚呼、格差社会の恐ろしさ……。

 

申し訳なさの果て

とはいえ私の本職はこのブログの題名通りのひきこもりなわけでして、石の上にも3年……どころか家の中に30年も居た覚悟といえば伊達じゃありません。

 

待たされることには滅法強い自信がありますが、深刻だったのはこれが他者にまで害を及ぼし始めたという点です。

 

社会の日陰で生きている者なりにも、ここ数年はDiscordを利用して同じひきこもりの逞しい同志らや、親切な社会人の方々と交流させていただいておりましたが、あまりにも私のPCが重すぎる余りに、定期的に通話が途切れたり、音声が遠退いたりしてしまうトラブルが起きていました。

 

私などの為に時間を割いてもらっていながら、許容できない失態だと思いました。あまりの申し訳なさから、己の五臓六腑がキューと鳴きながら豆粒大に縮小してゆくように感じられた程です。

 

自分一人、重いPCでだらだらとネットサーフィンをするだけならまだしも、人様に迷惑を掛けるのは流石に我慢ならない……ということで、PC補修の最終手段とも言える「初期化」を行うことに決めました。それを行う場合はデータの整理にかなりの手間が掛かりますが、もはやそうも言っていられません。

 

最終奥義・初期化

PC上の大事なデータ(と言ってもほぼパスワードのメモやネットゲームの想い出のSSくらいなものですが)を相変わらず画面を定期的に固まらせながら、せっせとUSBメモリに移行してゆきます。

 

様々な記録を見返している内に、つい古いアルバムを捲る気持ちで感傷に浸ってしまいました。「そういえば、最近の人生にこういう時間は持てていなかったな」なんて思いながら、データ移行処理の重さで、もはやマウスカーソルさえ動かなくなったPCの、忙しくなく点滅するアクセスランプを部屋の電気は敢えて点けずに真っ暗なまま、これまた久しぶりに取り出した音楽プレイヤーで音楽を聴きながら、ぼんやりと見守って過ごしました。

 

私は基本的には人工の景色が嫌いですが、暗い中でライトが光っている様子だけは別格です。

 

無音の悲鳴を上げながらいよいよデータ移行を終えて、本体の初期化に取り組み始めた無機質な旧友。

 

機械にとっての初期化とはある種の「死」であり、ずっと狭い部屋の中で生きてきたなりにも、彼が見ているであろう様々な情感の詰まった走馬灯。儚く健気なその点滅を眺めながら、私の意識状態も彼と一緒に"初期化"されてゆくような感覚にしばし浸っておりました。

 

「貧すれば鈍する」

かくして、旧友と共に狭くて暗い自室の中で再誕を遂げたしたひきこもり某でしたが、最終奥義を試したにも関わらず全く動作が全然良くなっていません。むしろ、初期化前よりも更にフリーズする頻度も時間が増えている有様で「これはもういよいよダメなのだろう、二束三文で友達を売り払ってしまおう」という案も自然と浮かんで参りました。

 

しかし、PCを買う資金力など到底ありもしないのがひきこもり。全財産を叩いたところでたかだか数千円くらいですし、売ってお金になるような骨や臓器はもう残っていません。

 

「それでも一応、新しいPCを見てみるくらいならバチは当たらないだろう……」というわけで、もうほとんど呼吸すらしていない疑惑がある旧友の冷たい手を握り締め、通販サイトで現代式のウインドウショッピングに臨みました。

 

「普通に、安定して使える」性能のものはいずれも安くて10万円台でした。単にネット閲覧をするだけであれば5~7万円の価格帯のもので済むようですが、PCを酷使する職業柄(ひきこもり)や、たまに遊び程度の動画作成・作曲で自尊心を誤魔化している事情もあり、もし低価格帯のものが手に入ったところですぐダメにしてしまい、結局は安物買いの銭失いになってしまう気がします。

 

ところで、"ウインドウショッピング"をしている内に、PCにはメモリ数やインテルプロセッサー、HDD、SSDなど、色々な仕様の違い、グレードの差ががあることを知りました。

 

「これとこれとはいったい何が違うのやら……」と好奇心が湧いて調べる内に、大方それらの違いや特性がわかってきて、PCの仕様やパーツというのは私がこれまで全く興味を持ってこなかった分野だけに、頭に新鮮な風が送り込まれてくる心地がしました。

 

それに、お金は無いにしても「もしお金があったらどれを買おうか」と期待を抱えて眺めてみる時間が本当に楽しかったのです。そういえば私は「早く経済的に自立しないと」という焦燥感だけは人一倍ありましたが、こうやって純粋に何かに憧れたり、楽しむ時間がこの頃はほとんど無くなってしまっていたことを思い出しました。そういうのはホントに大事なようですね。

 

そんな自分の様子を客観視している内に「貧すれば鈍する」という言葉を強く思い浮かべました。お金に困って切羽詰まるほど、頭の中は狭い視界だけで一杯になって、憧れや楽しさ、果ては生き甲斐さえも次々と失ってゆくのだろうなと、身を以て体感させられたのです。

 

世間的に見れば美談にも満たない些細な話でしょうけれど、私にはなんだか物凄く大きな収穫を得られたような満足感があります。

 

新たな気付き

ゼエゼエと肩で呼吸し、時折は嗚咽まで交えながら目を白黒させている相棒を引き摺って、私の方はキラキラと目を輝かせて、ついでに指まで咥えてショーケースに並ぶ「高性能なお友達」を眺めて回りました。

 

なるほど、こっちはメモリが4GBで、あっちは16GBのゲーミングで……という風にPCの"性能の基準"となるらしい搭載パーツへの見識を深めてゆく内に、「それじゃあこの、死に掛けの相棒はどうなんだ?」と無性に気になってきて、「ちょっとオマエの脳みそを見せてくれよ」とハンマーを振り上げたとしたところ、急に息をゴフッと吐き出した彼が「お、落ち着け、弱者男性! オレにはちゃんとそういう機能があるんだ……!」などと言うので大人しく待っていると、画面には相棒の様々なスペックが表れ始めました。

 

RAM:8GB、inten i5、HDD 3TB……

 

私がその日に急遽仕入れた知識と照らし合わせてみると、相棒は決して悪くない性能だったのです。

 

にも関わらず相棒のディスクは100%で回りっぱなし。タスクマネージャーで監視してみると、「system」という基本プログラムが常時フル稼働しております。

 

「このウイルスみたいな挙動は一体何なんだ」「スペックで見れば、文字を入力しようとしてフリーズするような代物では決して無い筈なのに……」と私は訝しみました。

 

「7年前のモノとはいえ、スペックで見れば決して悪くは無い」

 

この発想がカギとなって「根本的に何か設定が間違えているのではないか?」という疑惑が浮かび上がり、システム項目から余計な機能がONになっていないかを改めて虱潰しにしてみることを思いつきました。

 

すると、背後でアプリとの通信を行うものや、マイクロソフトにデータを送信するもの、周辺のネットワーク利用者とデータを共有するという、そうした厄介な機能が10個くらいは「ON」に設定されていたことが判明したのです。

 

試しに「必須なもの以外はすべて切る」くらいの覚悟で、次々と機能を「OFF」にしてゆきました。

 

その結果、つい先ほどまでは文字を入力するだけでもフリーズしていたPCが、打って変わって軽快な挙動に。「購入当初のパフォーマンスに戻った」とも言えてしまうほど動きが早くなったのです。

 

現在では晴れてスラスラと文字を打てております。ちょっと前までは「手書きの方がまだ早いのではないか……」という酷さだったので、感動ものです。

 

これもまた以前のような"一時的な改善"である可能性は大いにありますが、それにしても今は一時の愉悦に浸っておこうと思います。

 

他にも「性能は決して低くない筈なのにPCが重くなった」とお悩みの方がいらっしゃいましたら、「スタートメニュー」→「設定」から、各項目の余計な通信機能、連携機能がONになっていないか、一度虱潰しにしてみてはいかがでしょうか。

 

「PCの不調時には初期化が効く」という発想は知人らにいただいたものであり、自分一人では決して至れない選択でした。この点からも、他者の発想、他者の目線というものの威光をつくづく痛感致します。

 

お陰様で物理・精神共に色々の気付きを賜って、実りある一日となりました。

 

今回はまさに「不幸」が「幸福」に転じており、「福の神(吉祥天)と貧乏神(黒暗天)は双子の姉妹で、二人はいつも一緒に行動している」という日本に古くからある言い伝えを想起させられる事例でもありました。

 

不幸と幸福は双子の姉妹なので、現状が不幸な同志たちには同時にチャンスもやってきて来ている。というわけで、こんなネットの片隅の日記を読んでくださる物好きな読者さんにも「あの時、不幸な思いをしていて良かった!」と思えるくらい大きな、「不幸の先の幸福」が舞い込んでくることを願っております。